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  • Posted on
    2010.08.24
  • posted by kenshin.

Cells Alive System Freezing







「Abre los ojos (Open Your Eyes)」は、現代医療から見放された難病の治療を未来に託し、自らの肉体を長期冷凍保存状態にした主人公の、頭の中で繰り広げられる『夢』をモチーフにした、Alejandro Amenábar監督作品として有名なスペイン映画(トム・クルーズ主演の「Vanilla Sky」は、これのハリウッド版リメイク作品)である。

もちろんこれらは映画の中の物語でありSFなのだが、冷凍保存技術の発達により、この映画の様に難病の進行を一旦停止させ(冷凍して)、治療方法が開発された時点でまた解凍・蘇生し、適切な治療を施した後、回復できるとしたらどうだろう?まさに夢の様な話しである。

しかし現在、それが俄然現実味を帯びてきている。

 細胞蘇生システムとも呼ばれるセルアライブシステム冷凍(Cells Alive System冷凍、CAS冷凍)は、従来の冷凍技法による食品の凍結・融解に伴う味や風味、香りの低下を大幅に低減することを可能にした冷凍技術。

本来水分子が静かにしている状態では、水は凝固点である0℃以下になっても氷にならない。この状態を過冷却と言う。ところが現実には何らかの刺激が水分子に加わる為、その場所から凝固がはじまり、固体に変化していく。CAS冷凍技術はそこに目を付けた技術だ。

従来の冷凍方法では、食品に含まれる水分が周辺部位から徐々に氷に変わるため、氷が結晶化することによる体積の膨張で、食品の細胞膜に傷をつけてしまっていた。この為、解凍時にこの傷口からいわゆるドリップと呼ばれる細胞内の栄養や水分が流れ出し、食品の味や風味を落としていたのだ。

しかしCAS冷凍の場合、水を瞬時に凍らせることで結晶化を防ぎ、細胞膜を無傷に保つことを可能にしたのである。食品を冷却しながら特殊な磁場環境(CASエネルギー空間と呼ばれる)の中に置き、ある微弱なエネルギーを与えることで、細胞中の水分子を振動させつつ安定させ、過冷却状態を保った後、瞬時に冷凍させ水分の結晶化を抑えるという仕組みだ。

CAS冷凍は、鮮魚の冷凍保存だけでなく、生鮮食品やショートケーキ、にぎり寿司など、従来冷凍が困難だったものへの新鮮冷凍で既に実用化されており、三菱電機からは家庭用冷蔵庫まで発売されている。そして4年前から、アメリカ、メキシコ、ブラジル、ドイツ、フランス、タイ、ロシアなど、海外でCAS冷凍、CAS工場を導入している国が22カ国にまで広がった。
開発は㈱アビーの大和田 哲男氏の手によるが、日本以外でも世界10カ国以上でCAS冷凍に関する特許を取得済みで、国内外30を越える大学・研究機関と、現在も共同で研究が続けられている。

目下最大の関心は医療分野への応用であろう。細胞を傷つけずに冷凍が可能なため、ティースバンクなどの医療の移植技術の分野でも応用されつつある。

例えば茨城県つくば市の「霊長類医科学研究センター」では、現在CASを医学に応用するための実験が行われている。それは臓器の冷凍保存について...。実験は、メスのカニクイザルから卵巣を取り出し、それを医療用に特注されたCAS冷凍機で冷凍。1ヵ月後、卵巣を解凍し移植手術を行った結果、生殖機能が正常に復活した。この方法の確立は、ガン治療への応用に直接的な成果をもたらすとして、大きな期待が寄せられている。

すなわちガン患者の卵巣を取り出し、CASで冷凍保存。そして放射線治療によりガンが完治した後の卵巣を、再び本人の体に戻すと、その後の妊娠も可能になるという考え方なのだ。まさに『夢』のテクノロジーである。


そして何よりも重要なのは、これまで多くの場合に「他人の死を願っていた(たとえ本心からでは無くても)」移植手術に、革命が起きることではないだろうか?
この冷凍技術が人体にも有効であることが証明され実用化されれば、死後数時間以内に移植する必要があった臓器の移植も、時間による制約が取り払われる。例えば若くして亡くなったドナーの臓器を新鮮な状態で冷凍し、それを必要とする患者が現れるまで、いつまででも保存しておける、という具合に。このことは、患者の家族からより多くのストレスとプレッシャーを取り除き、患者本人の生存権にも大きく貢献できる。IPS細胞を使った臓器製造と組み合わされば、更に多くの患者に生きる希望を与えることができる。

医療分野以外でも、絶滅危惧種に指定された動植物や微生物の保存、宇宙開発の為の長期保存などなど。その応用分野はか計り知れない。

これまで技術革新がもたらしたものは、原子力などの様に決して恩恵ばかりではなかったが、人類の飽くなき野望と挑戦によって、これからの未来には映画やSFに登場する魔法でしかなかった特殊技術の多くが、今後実用化される可能性は極めて高い。




[reference]

株式会社アビー(http://www.abi-net.co.jp)


wikipedia





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