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    2010.07.04
  • posted by kenshin.

チェコ・アヴァンギャルド










19世紀末以来、とりわけ1910年代からソビエト連邦誕生時を経て、1930年代初頭までの、ロシア帝国・ソビエト連邦における各芸術・文化運動のことを「ロシア・アヴァンギャルド」と総称する。 第一次世界大戦前の初期においては、キュビスム、未来派、ネオ・プリミティヴィズムなど、同時代のモダニズム運動との共通性が顕著であったが、第一次大戦を経て次第にシュプレマティスムならびにロシア構成主義が台頭。ロシア特有の芸術運動となっていった。ロシア革命以降は表現上の革新と政治革命が相互に作用し、純粋芸術においてのみならず、プロパガンダ・アートの分野(ビラ、ポスター、宣伝列車等)で、また1920年代には芸術と生活、そして社会主義的な産業化のトリアーデの一致をめざす様々な分野(建築、プロダクトデザイン、写真、映画等)で、その可能性を開花させるに至った。

これら近代におけるモダニズムから派生したアヴァンギャルド芸術は、当局からも支持されたが、その後の農業集団化にはじまる一連の上層部からの革命を契機とした、ヨシフ・スターリンの「文化革命」による政治的な抑圧と、難解さに起因する農民を中心とした一般大衆からの不支持や、芸術運動そのものの内在的な行き詰まり等の諸要因の複合によって、1930年代を境に終息していくこととなる。




この時代、ロシアのみならず中東欧で燃え上がり、ヨーロッパ各地に飛び火したアヴァンギャルド芸術運動は、チェコ共和国プラハに於いて、1910年代末から芸術文化の前衛運動〝チェコ・アヴァンギャルド〟として確立。ヨーロッパやその後のロシアなどへ大きな影響を与え、スラブ文化圏における中心的役割を担ってきた。

第二次大戦中、ヨーロッパのアーティストの多くがアメリカへと渡り、同時に戦後のタイポグラフィーやグラフィックデザインの中心地も、ヨーロッパからアメリカへと移って行くわけだが、その中でもとりわけ大きな影響を及ぼし、その役割を果たしたのが『Devetsil(デヴィエトシル)』の中心者Karel Teige(カレル・タイゲ)であろう。

1922年ごろ、チェコ・アヴァンギャルドに於いて「ポエティスム」という芸術理論を明確に理論体系化したのが、『Devetsil』の中心メンバーでもあったKarel TeigeとVitezslav Nezval。グループは画家、作家、詩人、建築家、音楽家、写真家、舞台作家、役者などで構成されており、その特徴は、生と芸術が「ポエジー」においてひとつになる、という総合芸術論であった。アカデミックなイデオロギーではなく、普段の生活を豊かに、楽しくする芸術が、つまり「ポエジー」というひとつの美に集約される、というものだ。





「われわれがポエティスムと呼ぶところの新しい芸術が、生活のアート、生きることのアート、楽しむことのアートとするなら、それはことの成り行きとして、毎日の生活のしかるべき部分でなくてはならない。スポーツ、恋愛、ワイン等々。すべてのレジャーと同様、楽しいもの、近づきやすいものでなくてはならない。それは職業などではありえない。むしろ、普遍的なニーズとなるに違いない。ポエティスムは哲学的な方向性をもっているわけではない。文学ではない。絵画ではない。狭義の意味での『イズム』でもない。普通に使われているロマンティックな意味での美術でもない。とどのつまりが、ポエティスムとは生活の仕方なのだ。生活の機能であり、かつまたその目的の充足なのだ。」Karel Teigeは後にそう語っている。


Devetsilは、1920年代のチェコに於いて、最も前衛的で「人工主義」、「絵画詩」、またはLe Corbusierに比肩しうる建築理論などを持つオリジナリティ溢れるアーティスト・グループとして不動の存在であったが、20年代後半、ポエティスムはフランスのシュルレアリスムに歩み寄り、徐々にそれに取って変わられることになる。

近年、日本でもブックデザインや絵本、アニメーション映画などを筆頭に、チェコ文化への注目が集まっている。また、キュビズムの画家として知られる兄とそれらの作品を装丁した弟として有名な「チャペック兄弟」、映像作家・アーティストとしても著名なヤン・シュヴァンクマイエル、近現代芸術に偉大な影響を与えた「コラージュ」という表現技法を産み出したイジー・コラーシュなどなど、チェコ・アヴァンギャルドの系譜から生まれた秀才たちは、その後世界中のアーティストやデザイナーたちに多大な影響を与え続けながら、今もその魅力は衰えを見せない。


芸術運動を通じて生活や社会に豊かさを与え、またそれら普通の生活の中にある、もしくは生活そのものを〝ポエティスム〟と呼び、そこに『美』を見いだしていたアーティストたちの哲学は、100年近い時を経て、今まさに現代への警鐘として、たま新たな価値観の提起として、民衆からの支持を得ようとしている。




参考資料 

wikipedia

チェコ・アヴァンギャルド ブックデザインにみる文芸運動小史  西野 嘉章 (著) 




text by NOKU

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