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  • Posted on
    2009.07.10
  • posted by kenshin.

薫る香り





夏の香り
海の匂い
雨が降り始める前の匂い
道ばたに咲く可憐な花の香り
森や泉の香り
大切な人のそばに寄り添った時の匂い
大好きな食べ物や果物の香り

人はさまざまな香りの中で生活しています。その香りを嗅ぐことで蘇る記憶やイメージもしかり。ある特定の個人を識別するのにも、香りは大いに役立っています。
例えば「フレグランス」。
パフューマーと呼ばれるフレグランス専門の調香師により調香された「香水」は、「視覚で味わう絵画」、「聴覚で味わう音楽」と並び「嗅覚の芸術」と称されていますが、もともとは宗教的な用途や薬品として使われてきました。
入浴が一般的でなかった16世紀以降のヨーロッパで、体臭消しとして発達した香水は、近代以降ファッションや嗜(たしな)みとしての発展を遂げてきました。

ひとつの香水には、平均して50~200種類もの香料が含まれています。更にそれらの香料は、また何百という香りを構成する成分からなっており、莫大な種類の成分が複雑に組み合わされることで香りは出来上がっている為、その成り立ちの面から見ると、一つとして同じ香りはない、と言えます。

また、それら香りの刺激は、脳に直接伝わるという研究報告があります。
その性質を利用して、うつ病等の精神疾患患者10名に、芳香器を使って柑橘系の香りを一定期間嗅いでもらったところ、10名中7名が抗うつ薬を中止することができたそうです。
他の3名も薬の量を減らすことができました。他にも免疫系や内分泌系の機能を回復する効果が見られたそうです。しかし、何故そうなるのかは、未だにわかっていません。






化学薬品が出現する以前、東洋でも西洋でもいろいろな香草(ハーブ)が、塗り薬や飲み薬として医療に利用されていました。
このような香草を利用した治療方法のことを「アロマテラピー」と呼び、語源はスパイスや芳香植物を意味するギリシャ語の「Aroma」という単語と、治療を意味するフランス語の「Therapie」とを合わせて作られた造語なのだとか。
フランスやベルギー、ドイツなどでは、植物療法を含めた自然療法に対して医療保険が適用されるケースもあり、医師の処方箋により薬局でエッセンシャルオイルを購入することまでできるのだそうです。
これらの事例は、精油(ある種の植物からとって、精製した芳香油・揮発油)の抗菌作用と、そこに含まれる種々の薬理作用を持つ物質を「薬(くすり)」として利用しているわけですが、その薬理作用のもととなる物質のことは、現在でも全て解明されているわけではありません。実はまだまだ謎の部分が多いのです。

更に、香りは精神にもある種の作用をもたらす、という結果が多数報告されています。例えば、一つの香りが記憶の助けとなり、それに付随する記憶を呼び起こすことがあります。香りを通してその人の脳裏に浮かぶ映像、遠い記憶などは、嗅覚と脳、特に右脳との結びつきによるものです。
そのため、例えばミントの香りのする部屋で英単語の暗記練習をすると、ミントの香りのする場所ではスラスラと単語が出てくるといった実験結果もあるようです。つまり、香りが記憶を助け、活発にする働きがあるということです。
ちなみに聴覚にもこれと同じ様な効果があり、クラシックやジャズなどの落ち着く音楽をバックミュージックにかけながら勉強すると、記憶力が上がるのだそうです。
そもそも、視覚と聴覚が私たち動物の感覚を支配するようになるずっと前、全ての生命がある種の共通感覚機能を持っていました。それは、水中・空気中の物質と直接接することによって得られる化学的な感覚だった。実は、これが嗅覚の始まりとされています。その後、さらに波動やエネルギーを感じることで、聴覚や視覚は得られてきたものと考えられています。つまり、嗅覚は生命が持った一番原始的で、一番大切な感覚ということになります。
また、私たち動物が、他の人と自分を区別する為、そして他の人を意識する為にも、嗅覚はとても大切な感覚なのです。
そういった意味においても無意識の領域で、お互い(人間同士)や種を超えて自分の存在を知らしめる事、同時に相手を認識する、という基本的な場面で、個が放つ「香り」の存在とは、想像以上に重要なものだ、と感じます。
ただし日本では、食生活や入浴頻度等の文化的な違いからか、香水の使用はそれほど一般的ではない様です。臭い、味覚に敏感な日本人は、概ね「無臭」を好む傾向が強く、体臭の強い人もそれ程多くはないので、香水そのものの認知や、臭いに対するマナーの違いなども影響して、香水の普及に歯止めをかけている、とも考えられているようです。
何事にも目立ち過ぎず、集団の中の「個」を尊重する我々としては、香りの分野においても、同じ論理を無意識に踏襲してしまうのでしょうか...。

記者の「寝る時には、何を着ているんですか?」という質問に、「CHANELのNo.5を着けているわ」と答えたマリリン・モンローのエピソードは、あまりにも有名です。

英語では、洋服を着ることも、香水を付けることも、同じ「wear」という動詞が使われるのですが、ファッションという名の個性や社会性と共に、自分が「まとっている」香りそのものが、実は自分のアイデンティティーを守ることにも通じているのではないか...、そうは考えられないでしょうか?

text by wk

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