Interview

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  • Posted on
    2009.01.02
  • posted by kenshin.

Gary Snyder

『生きるものはすべて食物を食べ、また他者の食物となる。複雑な動物である人間は、エネルギー変換の広大で微妙なピラミッドに支えられている。必要以上に消費し、破壊することは、生物学的に不健全である。現代社会の生産と消費の大部分は、生存はいうまでもなく、精神と文化の成長を促すものではない。こうした生産と消費が貪欲と妬みの背後にあり、このふたつはまた、古代から続く社会的、国際的不和の原因でもある』
ゲーリー・スナイダー「四易」1969年から

YS: 多数の古典を読んだことについて、何度も書かれていますが、古典の読書体験から何を学べば良いのでしょう?

GS: 文明は紀元前500年くらいから0年くらいに始まったと信じるように教えられているけれど、もしかしたら、文明の始まりは「終わりの始まり」だというように考えている。それから文明は破壊の一途を辿っている。



YS: 「四易」を執筆してから約40年が経ちましたが?

GS: 今日、あのとき書いたことは、もはや関係ない、と言えたらいいと思う。しかし実のところ、僕の当時の憂慮は、さらに真実味を帯びたといえる。あれから、ふたつ大きな変化があった。まずひとつは、人類がエコロジカルな世界のなかで、どう生きるべきか、地球に対してどう責任をとっていくべきか、考え、深く理解しようとする人口が、世界各地から登場してきた。インドやロシアの人が、僕の言っていることに共感して、手紙をくれる。今起きていることについて、どう考えていいのかわからないけれど、正しいことをしたいと感じているようだ。そしてもう一つは、この世界のなかで、大企業とか軍とか絶大な権力と富を占有する勢力があって、どんどん力を拡大しようとしているということ。この2つの動きが、どう相互的に作用するか、歴史的に何を意味するのか、とても興味深い。何も起きないかもしれないし、2つの相反する力が衝突するかもしれない。

YS: ビート文学がカウンターカルチャー誕生のきっかけになったという考え方がありますが?

GS: 当時、ビートが大きなムーブメントになるという自覚は、まったくなかった。正直いうと、今だってよくわからない。サンフランシスコという街で、詩や議論を通じて、普段から言っていたようなことを言いながら、楽しく過ごしていただけなんだ。「世界を変えたい」と日常的に言っていたけど、まさかそれが可能だとは誰も思ってなかった。確かに政府のあり方とか、権力とか、自由について、強い感情を持っていた。人は無力に感じたとき、あきらめてしまう傾向があるけれど、当時の僕らは無力ながら、あきらめることはしなかった。考え方が正しいことはわかっていたからね。しかし、何かを動かしているという自覚はなかった。今も若者たちはビートに興味を持ってくれるし、ケロアックの本はまだ売れ続けている。カウンターカルチャーの効果は、いろんな形で、いろんな国で、いまだに続いているのだろう。ビートがやったのは、歌や詩を通じて、そして人々を驚かせるようなイマジネーションあふれる方法で、体制に反対するという精神を表現する、ということだった。そこに若い男女の間に起こる色恋沙汰とちょっぴりのドラッグが加わった。何かを達成したというわけではなかったんだ。

YS: ビート文学が登場した50年代後半を、ブッシュ時代の後期に比べることがよくありますが?

GS: 50年代は、確かに抑圧された閉鎖的な時代だった。でも、比べることに意味があるかもわからない。なぜなら、あの頃人類が抱えていた問題よりも、今、われわれが直面している問題のほうがずっと深刻だから。石油がどんどん足りなくなり、地球の温暖化が進んでいる。人口は過剰に増えるばかりだし、資源は失われる一方だ。つまり終焉に向かっているんだ。さらには、人類が核戦争に回帰する可能性だってある。何かしなければ終りは確実にやってくるだろう。


YS: こんな時代をどう生きれば良いのでしょうか?

GS: 大多数の普通の人々は、企業主導の世の中から得るものはないと感じている。そのとき、人々が生きるうえで求める選択肢がいくつかある。第一に原理主義的な宗教に回帰すること。第二に低レベルな物質的な喜びを見いだすこと。第三に、与えられた精神と肉体に可能性を見いだすこと、つまり、スピリチュアリティ、自然性、文化性を追求することだ。われわれ一人一人が、この3つに回帰する側面を多かれ少なかれ持っているのだと思う。

YS: ご自分のことを「人類学的ヒューマニスト」と呼んでいらっしゃいますが?


GS: 僕が生涯を通じて、世界の文化や歴史を勉強することでしようとしてきたのは、人間たちが何をしているのかを考えることだ。僕にとって、それは、人間という生き物が、有機的な進化と生態系の一部であることを認めることでもあった。バイオロジーは人間のために作られたと勘違いをしている人が多い。動物や自然について人間が知らないことはあまりに多いのに、それを認められない。それがわからない人と理解しあうことが一番難しいね。


INTERVIEW BY YUMIKO SAKUMA (www.yumikosakuma.com)


ゲーリー•スナイダー Gary Snyder
20世紀を代表するアメリカの自然詩人。
新聞等の印刷報道、文学、作曲に与えられる米国で最も権威ある賞であるピューリッツアー賞を代表作の「亀の島」で受賞し「終わりなき山河」ではボリンゲン賞を受賞。1950年代前半にはビートジェネレーションの詩人として活躍しジャック•ケルアックやアレン•ギンスバーグ等との交友関係は有名であり人々に多大な影響を与える。
また1950年代の中頃から10年以上京都に暮らし臨済禅を相国時や大徳寺で学んだ事もある。
地域に根ざした環境保護運動、カリフォルニア大学の教授等活動し、現在、社会に対し最も影響力のある詩人の一人である。


※インタビューは、2007年2月に行われたものです。

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