Interview

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  • Posted on
    2010.08.30
  • posted by kenshin.

masayuki Kinuta







NOKU      「ぬいぐるみ」と呼んでいいのかどうか定かではありませんが、私はこのような布の芸術作品に初めて出会いました。こういった作風に行き着いた経緯をお聞かせ下さい。



Kinuta      う~ん...、色々な事が複合的に絡み合ってて、正直自分でもよくわからないんですが(笑)、ただ誰かを真似たり、教えて貰ったりしたのではなく、全て自分の考えたやり方で作る事ができているので、それはそれで良かったのかな?と思っています。 あと、特に感覚的な部分では、音楽の影響が大きいです。これも具体的な説明が出来なくて申し訳ないのですが、そもそも言葉では説明できない感覚なのだと思うんです。例えばグルーヴとか、そういう感性や価値観だったり、Jimi Hendrixや盲目のギターリストの弾き方なんかを見ていると、いかに自分が常識に捕われているか、を考えさせられるんですよ、「こんな弾き方もあるんだな」って...。 まあ、とにかく自分の興味が向くことに関しては、我ながら相当勉強してきた、という自負はありますね。特に歴史は勉強しました。なぜなら、歴史を知らなければ時代の流れが掴めないし、その国や文化の背景を知る事で、浮かびあがってくる感覚ってとても大切だと思うんです。 それと、アートに関しては、日本と海外では、かなり違うと思うのですが...。ニードルアート(手芸)って、今はまだ日本であまり評価されていないので、これからもっともっと面白い事ができるのでは?と思っています。




NOKU     何故日本では、芸術としてのニードルアートが盛んじゃないのでしょうか?

Kinuta      おそらく男性の作家が少ない事と、「主婦のたしなみ」的なイメージが強いからではないでしょうか?素晴らしい技術があるのに、もったいないというか、まだまだ色々な可能性があると思います。



NOKU       先程、ご自身の制作の感覚的な部分で「音楽」をキーワードに挙げていらっしゃいましたが、その音楽を通じてどの様にアイデアが涌いてくるのですか?また、過去にどんな音楽に触れ、どんな風にしてセンスを磨かれたのでしょうか?そして具体的に、音楽は作品や制作過程のどういった部分に影響していると思われますか?



Kinuta        本当は、ギターリストになりたかったんです(笑)。
大袈裟に聴こえるかも知れませんが、個人的に音楽は人間が作り出したモノの中で1番美しいモノだと思っています。また音楽は、今までタブーだった事にあえて踏み込んで行くことで、新しいジャンルが作られてきた、という歴史もあり、その冒険心もひっくるめて好きなんです。
自分の作品も、音楽に影響を受けて出来たものは何点もありますし、Primal ScreamやRage Against the Machine、伊福部 昭(イフクベ アキラ)、GuitarWolf、Stravinskyなどの、新しくてパワーのある音楽から発想し、新たな作品が生まれる事も度々です。
音楽は、自分にとって、永遠の憧れで、掴んでも掴みきれない美しくて力強い存在なのです。


NOKU      なるほど...。 例えば伊福部 昭さんは、独学で作曲を学び、映画の音楽や色々な方面で活躍されていた方ですよね? アーティストとして、一人一人の哲学や生き様がそれぞれにロックであったり、そんな魂が音楽に溢れ出ているのでしょうか?
また、私的音楽というのは、常に前衛的であり、違和感なく心の中に入ってきて、時には心をかき乱されたり、時には温めてくれたり、また時には前向きな姿勢に正してくれたり、感覚が豊かになったり、素直に感動できる音楽には涙が出てきたりします。あっ、それから実験音楽を聞いていると、私なんかでも創作意欲をかき立てられちゃいますしね(笑)。



Kinuta        本気で音楽で食べて行こうかとも思ったんですが、やはり現実にはご飯を食べて行くというところまでは、残念ながら到達できませんでした。それでも、何か自分自身で産み出せないものかと...「ゼロから何かを作りたい!」という一心でしたね。しかも、自分が作り出したモノからは、「必ず音楽を感じさせたい」と思っていました。

最初のきっかけは、Red Hot Chili PeppersのCDジャケット。そして、Sonic Youthのアミグルミなど、直接の音楽以外にもミュージシャンやそれを取巻くビジュアルなどからインスパイアされました。そして、普通のぬいぐるみでは物足りないし、何か新しいこと、自分自身の中から沸き上がってくる様なモノを志向していましたから、普通のぬいぐるみならば、ふかふかで柔らかく「かわいい」と言われるものですが、僕の作るぬいぐるみは、見事に全部真逆でしたね。レザーやジーンズの生地など、触った感触がとてもゴツゴツ・ゴワゴワしています。音楽みたいに、ある種の「タブー」をやってのけることに、自分でも面白さを感じていたんでしょうね。


NOKU      他人を真似ず「独学」という部分にこだわって制作をしてこられましたが、物事への探求心や冒険心、また制作過程での構築と分解、そしてアーティストとしての哲学などを根幹から支えているであろう、ご自身のルーツの様なものは、どこにあるとお考えですか?


Kinuta         実は、父親がきのこ学者という特殊な仕事を、山の研究所でやってまして、直接関与した訳ではないのですが、やはり環境が独特なので、普通に洋書の図鑑をみたり、自然の中で暮らしてきたことが少なからず関係しているのかなあ?と思います。そういった理由で、一般家庭とはまるで違うものが沢山置いてあったり、無意識に色々な知識が自分の中に自然と入ってきたことで、ある種の自我が形成されたのは間違いありませんね。

少し話がそれるかも知れませんが、そういった自分の生い立ちからも、博物学というものには今でも興味を掻立てられます。また、博物学を再評価したい気持ちも強い。例えば図鑑が好きな人が、借金をしてまで図鑑を買い漁り、収集は海外にまで及ぶ。その様にして手に入れた図鑑を整理し、一つのまとまった全集にしたり、コアな分野ではありますが、未だにその魅力は色あせません。また、昔の博物のイマジネーションは凄い。見たこともない架空の生き物などをリアルな描写で描いていたり、古い日本画の図鑑などでも、非常に繊細なタッチで植物や動物、魚などが描かれている。特に博物学者の「高木春三」の表現は凄い。言いだしたらきりがないので、この辺にしておきますが(笑)、とにかくそういうちょっと人とは違った幼少期や青春時代を過ごしてきた事が、実は自分のルーツとして深く刻み込まれているんだと思います。


NOKU     ちょっとコア過ぎてついて行けそうにありませんが(笑)、日本の文化には私もすごく興味があります。
歌舞伎や相撲には日本独特のシチュエーションがあり、実はとてもエッジが効いている様に感じますし、そういう日本古来の文化の様に思い込んでいる物事でも、実際には西アジアやエジプトに起源があったり、広くユーラシア大陸の文化が混ざっていたりと、海外から日本へ渡ってきたモノが殆どなんだそうです。そういう意味では、洋の東西を問わず、長い歴史の観点から眺めた「日本の文化」というものを考えていかなければいけない時代に入ったのでしょうね。
そんななかで、日本におけるニードルアートという分野は、今は確かにあまり目立ってはいませんし、日本古来の刺繍なども、およそ西暦500年頃にインドから中国~シルクロードを渡って伝わったと言われています。そういう歴史的背景を考え合わせると、衣田さんの発想はとても頼もしく、また芸術の感覚も日本という土地を意識したものに発展していくのではないだろうか、とも思えてくるのです...。
そして、2008年のエキシビジョン「stray cats」では、見事に猫を表現した作品が数多く見受けられました。とてもリアルで、今にも動き出しそうな猫たち。そしてそれを表現出来る観察力に感銘を受けました。



Kinuta        エキシビジョンもそうですが、実は依頼されて作る時の方が、制約という不自由さによって、予期せぬ事が起こって面白いんですよ!
だから、毎回まずはじめに、その制約をいかしながら「どう遊ぶか」を考えます。 作業自体は、慣れてくると単調になりがちだし、作品もつまらないモノになりやすい。そうなると、作っていても面白くないので、毎回大変ですけど、自分自身が楽しめる工夫というか、常に何か新しい挑戦をしようと考えています。


NOKU     なるほど、職人気質というかストイックな世界観ですね。 例えば「予期せぬこと」というのは、どんなことなんですか?


Kinuta     そうですね...、ある仕事で子供服のウインドウ・ディスプレイを担当したんですが、その時は「服を見せる事」という制約がありました。自分の作品の雰囲気とどう合わせるか考えた結果、服を着せたボディーの上に頭を付ける、というアイデアが生まれました。 普段は、頭だけ作る事や、服と一緒に見せるという事はないので、「制約がある」事によって、自分の作品の見せ方の幅が広がった、と感じました。


NOKU     また、これからの制作について何かインスピレーションを受けていることなどありますか?


Kinuta     またコアな話題で申し訳ないのですが、僕が日本人の素晴らしさに気付いたのは澁澤龍彦(シブサワ タツヒコ)の「高丘親王航海記」という小説と出会ったからなんです。感動しました。アジアを舞台にした澁澤文学に触れ、それを客観的に見て気付かされたアジアのエキセントリックさ...。
そんなモノを表現していけたら、と思っています。


NOKU      ますますのご活躍、期待してます。

長々とありがとうございました。












Masayuki Kinuta
 

1974年奈良生まれ。
キノコ学者を父に持ち、幼少のころから動物や昆虫に強い関心を持つ。
1993年より作品の制作を開始。
現在、展覧会を開催しながら、一点モノの布のアクセサリーを展開中。
  


Biography
* 2003 United Arrowsにて販売

* 2003 Collex Living ( Roppongi hills )にて販売

* 2004 BURNEYS NEW YORK ( GINZA )にて販売

* 2005 - 2006 H.P.DECO ( Aoyama & Fukuoka )にて販売

* 2007- OTOE( Harajuku )にて販売

* 2008 Exhibition at Pict Gallery

* 2008 Exhibition at DOORS Minamisenba

* 2008- ANATOMICA(Paris)にて販売

* 2008- United Arrows Harajuku Men'sにて販売中

* 2009 Window Display at ギンザのサヱグサ
 (日本ディスプレイデザイン協会賞 受賞)
 




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