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  • Posted on
    2009.09.24
  • posted by kenshin.

Serenissima Repubblica di San Marino




イタリアの「イモラ」というサーキットで開催されていた「サンマリノGP(グランプリ)」は、2006年を最後にその幕を閉じた。
F-1レースには1国1開催という原則があり、長らくサンマリノGPはその原則の例外として取り扱われてきたからである。
このサンマリノGPは、かねてより危険の多いレースであることが指摘されていたが、決定的となったのはアイルトン・セナの事故だ。
彼の死後も、すぐに閉幕しなかったのは「サンマリノGP」も「モナコGP」などと並ぶ名門レースだったこと、そして実際にはイタリアで開催されていたにもかかわらず「サンマリノ」の名を冠していたことなどが、その大きな理由だったのではないかと思われる。

F-1史上に残る名勝負が繰り広げられた「サンマリノGP」。
そのサンマリノは、「世界最古の共和国」という異名を持つ、世界で5番目に小さな国家。この国が共和国として成立し、初代大統領が就任したのは、西暦301年のことである。4世紀になった直後から、サンマリノは独立国として現在までの約1700年間、同一国家が存続していることになるわけだ。

サンマリノの起源は、マリヌスという石工職人が、ローマ帝国によるキリスト教迫害から逃れるために、ティターノ山という現在のサンマリノに位置するところに篭城、潜伏したことである、とされている。ちなみに、このマリヌスという人は「聖マリーノ」とも呼ばれており、それが転じて国名がサン・マリノとなったのだとか。
中世には大国や隣国からの侵略を受けるが、その危機を武力と外交力の両面から乗り越え、一時的な占領を許したことはあるものの、最終的には今現在も独立を維持し続けている。





また、サンマリノには「山頂の独立国」というニックネームもある。実際のサンマリノは海に面したところではなく、イタリア半島中部の山岳地帯にある。しかし、サンマリノが山頂の独立国と呼ばれる所以はこれだけではない。そこには、ヨーロッパが長い年月をかけて繰り返してきた歴史に深い関係があるのだ。
そもそも信教の自由を守るため、他国からの干渉を避けて独立を試みたのがこの国の起源である。ならば、自由と独立を獲得するために戦わなければならない。サンマリノは、歴史上幾度も繰り返された戦いにおいて、その防衛に成功し続けてきた類い稀なる独立国家なのだ。
断崖の上に建てられた城塞や中世の面影を色濃く残す石の街並み、険峻な山頂に造られた城塞もそうだが、塔の下にある武器博物館や、野外に展示されている兵器類。国家が自由と独立を維持するために払わねばならない代価とはどういうものであるかを、これらは雄弁に物語っている。

その一方で、迫害を身をもって知る集団が作り上げたこの国は、難民を手厚くもてなすことでも有名である。ガリバルディも戦いに敗れたとき、ここに逃れたことがあった。また、先の大戦においても、イタリアの参戦にも拘わらず中立を守り、戦火を避けるイタリア国民を受け入れたという。
小さくともきらりと光る国というのは、サンマリノのような国のことをいうのではないだろうか。
サンマリノが「山頂の独立国」と呼ばれるのは、こうした歴史的経緯によって独立を守ってきたことを表現した言葉だからなのである。

サンマリノは、国土全体が高台にあるため、海には面していないものの、遠くにアドリア海の素晴らしい眺望が見えることでも有名。
ニューヨークのマンハッタン島とほぼ同じ面積の国だが、4世紀から独立を守り通してきた世界最古の共和国として国連にも加盟し、世界遺産にも登録されるなど、世界からは一目を置かれる存在となっている。
「国の価値は、国土の広さと決して比例しない」ということを、サンマリノは身をもって示している。



サンマリノの人口は約3万人。
日本で人口3万人の自治体は、市にもなれない。
つまり日本で言う「町」が一つの国になっているわけだ。
国民が少ないということで、普通の国では有り得ないような悩みに直面することもしばしば。サンマリノの軍隊は、国民皆兵制度をとっているため、警察に振り向けられる人員が確保出来ないのだ。そこで、警察についてはサンマリノ共和国が雇用した外国人憲兵隊が担当している。
また、警察と同時に裁判所も必要になる。日本の片田舎のような町に裁判所があり、最高裁判所まであることになるのだから、サンマリノの実情を考えると国民の大半が顔見知りで、血縁など何らかの関わりを持っている人物が裁判官になってしまう可能性が高く、それでは裁判の公平性を保つことが難しい。そこで、サンマリノでは裁判官も外国人を雇用しているのだ。
自国民の利害関係が直接的に関係する裁判を、外国人に委ねるというのは勇気の要る決断だと思う。それでも「裁判の公平性を守りたい」というところに、サンマリノという国家のこだわりを感じ取ることができる。

また、EU加盟国をはじめとするヨーロッパ諸国は、税金が高いことで知られている。中でも消費税にあたる税金は25~30%という高率になっており、日本で5%の消費税を増税することが大きな議論を巻き起こしていることに比べると、まるで次元が違う。
サンマリノにはこの消費税が存在しない。つまり、単純に比較してもサンマリノを取り囲むイタリアで同じものを買い物する場合、サンマリノよりも3割近く高くなってしまうのだ。これがサンマリノに訪れる人の大きなメリットとなり、ショッピングタウンとしてヨーロッパ全土から多くの観光客を集める結果となっている。
更に、一般人の買い物だけではなく、サンマリノの税制では法人税や所得税も安く、外国の企業がサンマリノに本社を移転するという事例も多く見られる様だ。このような国や地域は「タックスヘイブン(租税回避地)」と呼ばれており、サンマリノも世界の主要タックスヘイブンとしてリストアップされている。

同じ小国でも「バチカン市国」、「モナコ公国」などとの決定的な違いは、普通の市民が普通に生活している国である、ということではないだろうか。
イタリア国内に自国の領土を有する小国でありながら、ナポレオンの時代や世界大戦を通じて独立を死守した歴史そのものが、サンマリノ国民の誇りとなっているに違いない。

我らが日本も、決して大国とは言えない大きさの国家だが、その小さな領土に1億人を超える国民が生活していることを考えると、近年稀に見る「勤勉」で「優秀」な国民性である、とは言えないだろうか?

文化や時代の価値観、信仰、教育、政治、経済......、「戦後」という時代が終焉を迎えて久しい。新しい時代の新しい価値観を築き上げることが出来る世代とは、戦争を知らないかわりに日本人としての誇りも失っていない、新しい世代でなければならない。
政治や経済の面で、大きな方向転換を強いられている我等が日本も、数々の戦火をくぐり抜けてきたこの小国から学ぶべき事は多いのではないだろうか。


Text by WK

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