THE SALON STYLE JOURNAL

INFLUENCE

The Salon / The Last Salonによせて

様々な産業には様々な業界がある様にヘアサロンを生業としているものにはヘア業界というものがあり何かしらの形で関わりを持っています。

一般の方達には目に触れない様なヘア業界雑誌やヘア イベントなどが頻繁に行われていて、そこでは来年のヘアトレンド発表や美容師からの発信するヴィジュアルなど様々です。そのクオリティーは年々、グローバルなファッションや世界の流れなどを全く意識したものではなく心地よい言い方をすれば「J -pop化」したともいえるし、厳しい言い方をすれば「ガラパゴス化し質の低下」の様に思えてしょうがなく、それは生み出す、指し示すというよりも、空気を呼んで後を追いかけるという現象に発展していき、クオリティーの低下が原因で最近ではトレンドセッターに向けてではなくトレンドキラーに向けて発信しているかの様になってきているように見えてきたのと、ただ単に独りよがりな富の追求的な姿勢に、我々は何か違うよなあと違和感を感じていました。なぜならばそれは直感的に21世紀にふさわしい形態にどうしても心が思えなかったのです。そこに巻き込まれたくないなあという理由からヘアカタログ紙やヘア業界紙、ヘア業界から我々は少し距離を置いていました。

記号の様に使われだしたトレンドという言葉は大量生産と消費という生活様式の変化にともない出現した時代の趨勢、潮流、流行のことを指す言葉として「イメージは商品の大量生産を生み出す原動力となり」「消費と浪費は、継続的な欲求不満のサイクルに支えられ、社会的な善に高められる。」その状況は、アメリカニゼーションとして広まり、今日に至るまで、人々はこれ以外の存在方法を知らない状況となっています。
ヘアに関してもそうで有る様に、カタログ化されたヘアスタイルは「消費への胸おどるような幻想」としてしかなく、結果的に技術者から想像力とコミニケーション能力、創意工夫を奪い取ることになリ果てているように感じています。もちろん踊らされた消費者は生活様式や自分の持つ素晴らしい素材を否定した様な着せ替え的なヘアスタイルを知らず知らず押し付けられています。

本来の美容というものは根本的には方々の地域に広く存在・点在する地域の生活者、大勢の固定客を対象とする移動市場として働き、資本による大量生産品の捌け口として機能する物ではなく、自らの生活様式や哲学を可視化するスタイルという形に昇華されるものではないのではないでしょうか?
個々のスタイルは毎月送られてくるカタログやメールオーダー・マーチャンダイジングなどで本来、作られる物ではないと考えています。

今の多様化、複雑化した社会形式ではヘア界では画一イメージの大量生産的ヘアイメージは、もはやこの社会と隔離し始め、業界のシステムで打ち出す、そのものが社会やグロバールを意識しているトレンドセッターからは見向きもされないモノとなってきていると肌で感じるし、現在、世界のヘアサロン界でトップの店舗数を誇り成功している企業は人々にヘアのデザインを楽しめる、ヘアのデザインを人々に開放する技術を発明したヴィダル•サッスーンではなく、いち早くコマーシャル化し、ヘアプロダクトとヴィダル•サッスーンのカット法をアレンジし誰でも等しく切れる画一的なカット法を開発し、大量生産を武器に美容室工場として世界進出をはたしたイギリスのヘアサロン企業でカタログ化したデザインをショッピングモール店舗などで人々に与え巻きちらしていったのが成功のもととなったのも事実。その、大企業となった某サロングループのファウンダーでありレジェンドヘアスタイリストであった知人(イギリス人で昔の仕事仲間でもある)が一切の地位を捨て自分の信念にもとずきカリフォルニアのLaguna Beachで新しい形のサロンを先日オープンしました。
上昇志向の強い彼が具現化したサロンは皆の予想に反してthink global,acting local的な感じのサロンでした。(我々には意外ではなかったのですが、、)

誤解が無いように記しておきますが一口にヘアサロンといっても様々な形態があって、お金をかけずにただ短くなればいい人を主体として受け入れる美容室や、そこそこ流行っているスタイルを既製服の様に取り替えたいという様な人をメインに受け入れている美容室など色々あっていいと思うのです。しかしフレンチレストランがいい例で気軽にさくっと済ませたい、ビストロに行きたい人が グランドメゾンの技と食材をシェフがお客に腕を振るい真剣勝負する場所に行くと 振る舞われた方も鼻しらむおもいをするし、逆にグランドメゾンな料理を求めシェフのクリエイトを楽しみたい人がビストロ的なお店にいくともうそれはがっかりすると思うのです。
お店の選び方を間違えると振る舞った方も振る舞われた方も不幸になるとおもうのです。しかし現在、ビストロクオリティーのお店がグランドメゾンを装って仕事を行う、グランドメゾンの役割を持ったヘアサロンが実はビストロクオリティーの様なことを行っている、これは今のヘアサロン業界の有様で結果、その目的に応じていかれた人々は落胆と失意な美容室ジプシーとなっているのが現状です。

我々、THE SALONは当初サロン立ち上げ時(2009)に自分たちの哲学と立ち位置を表明する事と業界が真摯な形で受け止めてもらえる様に日本初のヘアドネーションという社会貢献の運動から始めました。
なぜならば、こういう考えのもとでこういう立ち位置のヘアサロンですという事を表明しなければ、クライアント、すなわち選ぶ側が方向性の違いでお店選びに失敗し不幸にしたくないと考えたのと、真剣に情熱を注いで髪の毛施術できる人数は物理的に決まっているので、まずは興味の有る人にきていただきたかったのは当初の考えでした。また我々のサロンで働く人々にもこういう考え方ですと知ったうえで働いてほしかったからです。

それはthink global,act localでクライアントと対話し気軽に個々のスタイルを提案したり、わいわいとインディビジュアルなスタイルを手助けするプチメゾン的な位置を目指したものだったのです。
何故、グランドメゾンなサロンを立ち上げなかったといえば、我々の考えるラグジュアリーでグランドメゾンなヘアサロンはあまりにも今までの常識では逸脱した考えのものであったし、世にあるグランドメゾンを唱う美容室は我々の目から見てあまりにも陳腐でかけ離れすぎて横並びにされるのを避けたかったという理由もあります、それにやりたかったシステムはあまりにも商売という面を考えれば採算がとれるものでは無かったので、その時点では我々にはそれのみを立ち上げる勇気がなかったのが理由にありました。

しかしクライントへの個々のスタイルを提案し続けるスタンスをとるに連れて我々のクライアントやグランドメゾンを所望する人々が我々の考える真のグランドメゾン的なクオリティーなサロンを求めていることが肌で感じていて、既に無視できる段階では無くなってきたのです。
それを立ち上げる事は勇気と準備の時間が必要でした。まだ誰も試みてなかった事であることでノウハウも無く何もない所から形にするには長い道のりでした。我々は確信しているのは、ヘアスタイルは単に髪としての存在意義ではなく、本当の美しさを追求し表現すること、人々にはその人の生き方や思想や生活にともなった美しいスタイルが必要でそれは、思想や心、生活様式、いわゆる「style」の可視化として、個人の生き方へのメッセージの一部であるという事。
我々は、SIMPLE , DIRECT ,  NO CLASSICな考え方でクライアントと正直に向き合い、時を共有し、対話し、知り、真摯な態度と情熱でただ単に形だけを模したラグジュアリーとは異なり、"茶の湯"の精神にもある「客人をもてなすという心づくし」を追求し、ヘアというステージで限界点までチャレンジしたサービスをグランメゾンな形のサロンで提供したいと考えたのです。
そういう理由から我々は2つのフェーズの違うサロンと無償で社会に貢献できるNPO団体を持つ事を決心し、今までの信念と変わらない「THE SALON」、現在ではすでに口コミで急速に広がり認知されているNPO法人「japan hair donation & charity」に加えあたらしいプロジェクトサロン「THE LAST SALON」を新しく立ち上げる事になりました。

THE SALONの立ち上げ直後に起こったリーマンショック、そこからEUの経済的危機やイギリスでの民衆の暴動、中東での民主化革命、BRICSの台頭、東日本大震災と未だ出口の見えない福島の原発事故など...。この4年の間に世界の人々の考え方や価値観は大きく変化しています、虚飾に満ちた情報はもう必要ありません。本当に必要で大切なサロンや真摯な態度で社会に関わるヘアドネーション団体というものを作る事を目指す道を我々は選びました。

  • 2017.4.04